【定期連載】スタートアップ法務から学ぶ失敗事例、注意点 第1回 創業者株主間契約

・はじめに

本投稿では、多くのスタートアップ、創業支援を行ってきた実績から、スタートアップや創業時における失敗事例や注意点など、よく問題となる具体的な事例を元に、スタートアップ時に注意するべき法律や法的観点をご紹介していきますので、皆様の起業の一助となればと思います。

・会社設立のスケジュール

ベンチャーやスタートアップ、新規事業創設時において、まず最初に行うのが会社設立の手続きになります。もちろん、会社設立の時期は、ビジネスモデルの構築、ファイナンス(資金集め)、創業者間の都合など一定の目途が立った段階で、設立時期を決めていき、会社設立前後のタスクを考えて、設立手続きに着手していくこととなります。
会社設立の具体的スケジュールとしては主に
⑴ 会社形態の確定(株式会社か合同会社か等)
⑵ 会社設立事項の確定(会社名、出資額、出資比率、役員構成等)
⑶ 会社設立手続き(株式会社であれば定款認証→設立登記)
⑷ 登記完了(その後口座の開設や法人での契約)

となります。
他方、個人投資家や複数人で資金を出しあって行うスタートアップの場合、発起人(後の株主)が複数人となり、各々の出資比率にしたがって、株主構成が決まることになります。
創業時の株主が複数人になる場合、株主間契約を締結することが後々重要になっていきます。
そして、株主間契約を締結する時期は、法律上はいつでも問題ありませんが、可能なら、定款認証までに、遅くとも実際にビジネスが動き出す前に行っておく重要性が高くなります。

・創業者株主間契約

創業株主が複数人いる場合での会社設立の場合、将来的に経営方針や不測の事態などで創業株主の一部が脱退するに際して、将来的に紛争が生じる場合があります。そこで、会社の経営やエグジットに関する処理を事前に、株主間で定めるために、会社設立と同時又はその前後で、株主間で契約を締結することを創業株主間契約といいます。
特に、創業時の取締役の役員や従業員が退任、退職する際に、株式譲渡制限に関する規定を定めておくことは非常に重要です。譲渡価格の設定も様々な方法があり、退任・退職時までに会社の株式価値が増大している場合には、そのままの価格で譲渡を認めると実質的にその退任者のエグジットを認めるのと同様に結果になり、買主側の負担が非常に増大してしまう結果、株式の買い取り自体が困難になる場合があります。株式の買取が価格的に難しくなってしまうと、その後のM&AやIPOの段階でリスクとなり、残った創業者がエグジットする際の障壁となる場合があります。また、エグジットしないまでにも退任者の持ち株比率によっては、会社の重要な決議ができず、経営自体に支障をきたす場合があります。
他方、退任創業者においても創業時に払い込みした金額でしか買い取りしてもらえないのであれば、その在任中の貢献度が全く反映されず、利益を享受できない形となるのも酷であり、在任期間に応じて一定の割合の株式については、買取(売り渡し)の対象外とし、退任後でも一定の株式を保有し続ける条項(リバースべスティング条項)を定めたりすることもあります。

最近の事例では、個人投資家からおよそ50%以上の持ち株比率で出資を受け、株主間契約を締結せずに、ビジネスを進めた結果、買取価格が増大してしまい、資金繰りに支障をきたしてしまう例があり、他方、このままさらに会社価値が増大すると、将来の経営に支障をきたす可能性が高かったため、ほぼ簿価額相当額で買い取ることになった事例があります。

 

・ポイント

① 複数株主におけるスタートアップでは、創業者株主間契約をしておくことで、紛争を未然に防ぐことができる。
② 創業者株主間契約では、設立と同時又は設立後すぐ締結することが平等な契約締結という観点からも重要
③ 株主間契約がない状態で、株式買い取りの問題が生じると、事業経営に支障をきたす可能性がある。

 

・おわりに

 コロナ禍以降、副業や創業に関する情報が増え、また、現在の政権でもスタートアップ支援強化施策を掲げていることから、日本においても今後、起業創業、スタートアップベンチャーが増えていくことが予想され、諸外国に比べて起業率が低い日本にとっては、喜ばしいことだと思います。

他方、スタートアップでは、ビジネスが急拡大することが多く、事前にしっかりとした予防法務施策を講じていないと、取り返しのつかない事態となることがあります。

 弁護士法人やなだ総合法律事務所では、会社設立前後の段階から、会社設立登記、ビジネスの適法性チェック、創業株主間契約、商標登録、などのサポートなど法務面からスタートアップを全面的にサポートしておりますので、お気軽にお問い合わせください。

執筆者:弁護士 簗田 真也

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