経営者保証に関するガイドラインの活用②~法人破産時の代表者の保証人負債の整理~

経営者保証に関するガイドラインを活用した保証債務の整理の問題点

本投稿では、以前、投稿した経営者保証に関するガイドラインを活用とした法人破産時の代表者の個人保証の整理について、ガイドライン活用時の問題点等を記載しています。
(以前の投稿 → 経営者保証ガイドラインを活用した個人保証債務の整理

経営者保証に関するガイドラインは、平成26年2月1日に策定、施行され、まだ実務的運用もそこまで固まっておらず、実際に実務として経験した士業も少ないため、全国一律の運用となっておらず、実際に実務を行っていく中で注意点、問題点があると考えます。

ガイドラインの制度自体は、コロナ禍によって回復不能のダメージを受けた企業の整理や今後の活発な中小企業の経営戦略の促進において非常に有益的なものである一方、内容を誤解されている経営者や弁護士も多く、その実務的運用が難しいと感じています。

経営者保証に関するガイドラインの具体的制度は、過去の投稿や中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/)や日本商工会議所(https://www.jcci.or.jp/sme/assurance.html)をご参考ください。

・経営者保証に関するガイドラインを活用しての整理手続きの主な種類

ガイドラインを活用して、代表者個人の保証債務を私的に整理する場合、現時点では主に以下の手法が取られることが多いと思います。

① 中小企業活性化協議会を活用してのいわゆる協議会スキーム

② 弁護士が単独で行ういわゆる特定調停スキーム

いずれの手続きを選択するかは、当該企業の規模、保証債務の金額、ガイドライン適用対象の対象債権者の数などによって、異なりますが、およそ上記二つのいずれかのスキームを利用して整理することになります。
しかし、①及び②いずれも問題点、注意点があり、実際にガイドラインを活用するかどうかは、慎重な検討が必要です。
活用するかどうかの大きな視点としては、

・個人破産をするほうが良いのかどうか

・そもそもガイドラインを活用することが可能なのかどうか

という二つの視点があると考えられます。

特に、代表者個人が金融機関との保証債務とは別に、リース契約の保証人になっていたり、消費者金融や一般的な負債を抱えている場合、ガイドラインを活用すること自体が難しいケースが多く、仮に活用できたとしても経済的なメリットは個人破産をした方が大きい場合が少なくないと思われます。

・協議会スキームを活用した整理

協議会スキームを活用した場合、事案によって多少変わりますが、主に以下の流れで代表者個人の保証債務整理が行われます。

1.対象法人の破産手続き申立て
2.協議会への窓口相談(第1次対応)
3.整理手続き策定支援の申し込み及び対象債権者への返済猶予の申し出(第2次対応)
4.債権者会議の開催又は個別折衝
5.協議会選定の第三者支援専門家との協議
6.法人の破産手続き終結
7.第三者支援専門家からの財務調査報告書提出
8.再生計画又は弁済計画案の提出
9.対象債権者との個別合意

協議会スキームを活用した場合のメリットは、中小企業活性化協議会という運営団体が間に入ることによって、金融機関等の対象債権者に対して、交渉、理解が得られやすく、最終的に調査報告書の内容によっては、個別合意がスムーズに成立可能な点です。

他方、デメリットとしては、第三者支援専門家への費用が発生すること、調査、報告書の内容によっては、合意の妨げになり、ガイドラインの活用自体が困難になることがあげられます。

特に、地方では第三者支援専門家側も経営者保証に関するガイドラインの実績が多くなく、事例や統一された調査方法、調査対象が定まっておらず、選任された専門家次第の面を払拭できないため、場合によっては、特定調停スキームや個人破産の方が経済的メリットが大きい可能性があります。

そのため、協議会スキームを活用するかどうかは、代表者個人の債務状況や過去の法人経営状況の詳細を把握して、判断する必要があります。

・特定調停スキームを活用した整理

特定調停スキーム活用した場合、事案によって多少変わりますが、主に以下の流れで代表者個人の保証債務整理が行われます。

1.対象法人の破産手続き申立て
2.受任弁護士からの対象債権者への受任通知及び返済猶予の申し出
3.事前の対象債権者(金融機関)との折衝協議
4.破産手続終結
5.対象債権者への受任弁護士からの資産、負債目録、弁済計画案の事前提案
6.同意が見込まれる場合、裁判所へ申立て
7.調停成立(又は個別に私的合意)

特定調停スキームを活用した場合のメリットとしては、第三者支援専門家などの介入がなく、費用が一定程度かからないこと、純粋な私的整理なので、各対象債権者の裁量や臨機応変な対応が可能なことです。

他方、デメリットとしては、受任弁護士と対象債権者たる金融機関のみの当事者間で行われる折衝のため、負債額が大きかったり対象債権者間の調整が必要な場合は、合意に至るまでの過程が難しく、個々の弁護士の力量に左右されることや、金融機関からすると公的機関が介入していないので、合意に消極的な姿勢を見せる場合があります。

・ポイント

 

(1)経営者保証に関するガイドラインを活用した保証債務の整理方法は主に2つあり、どちらもメリットデメリットがあるため、実務的経験が必要とされる場合がある。

(2)対象債権者の数や負債額、代表者個人がリース保証や消費者金融からの借り入れをしている場合は、ガイドラインを活用しての整理が非常に難しくなる。

 

・おわりに

 弊所では、中小企業活性化協議会との連携により、法人破綻の場合にも個人保証債務について、個人破産をせずに、整理する経営者保証ガイドラインを活用した私的整理にも力を入れています。
事業を行っていくうえで、ビジネス上のリスクはすべてのビジネスに潜在しており、破綻を恐れて、大胆な経営戦略が取れないのは、経済にとってマイナスと思います。

 また、経営者保証に関するガイドラインとは別に再建型の「中小企業の事業再生等のための私的整理手続き」等を定めた事業再生等ガイドライン(金融庁 https://www.fsa.go.jp/policy/jigyousaisei/index.html)が令和4年3月4日に公表され、同年4月15日から適用が開始されていますので、併せて廃止型ではない再建型の整理手続きも注目を浴びており、今までの一度失敗したら終わりという日本の悪しき風習の一つに終止符が打たれる日も遠くないと期待しています。

執筆者:弁護士 簗田 真也

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