【スタートアップ法務】ヘルスケアビジネスへの新規参入の基礎的な注意点

・はじめに

本投稿では、多くのスタートアップ、創業支援を行ってきた実績から、スタートアップや創業時における注意点として、今回はヘルスケアビジネスに参入又は事業展開を考えている方向けの基本的な注意点をご紹介していきます。

ヘルスケア事業については、人の生命、身体に影響を与える分野といえ、法規制としても厳しく定められており、留意するべき法令が多く、事業自体の適法性、広告規制、知財関係、個人情報保護など幅広い分野を見据える必要があり、専門家の助言や手助けも必要な場面が多くあると思います。今回は、基本的な注意点について記載させていただきます。

・規制法令

ヘルスケアビジネスのモデルにおいては、基本的に資格を有しない職員等によって、サービスを提供することになるビジネスモデルとなると思います。もっとも、ヘルスケアは、人の生命、健康に影響を及ぼす助言、行為であり、医療に関する行為と明確に区別する必要があります。当然、医療に関する一定の行為を行う場合は、資格が必要であると法律で定められています。

たとえば、医師法においては、医師でなければ医業を行ってはならないと定められており、保健師助産師看護師法(以下「保助看法」といいます。)は、保健師、看護師や助産師でなければ、原則、医療診療行為の補助行為を行ってはならないと定めれています。

そこで問題となるのが、ヘルスケアビジネスで提供するサービスが医師法や保助看法において規制される「医業」や「医行為」「療養上の世話又は診療の補助」に該当するかどうかが事業の適法性という観点から重要になってきます。

「医業」とは、判例上、「医行為」を反復継続する意思をもって行うことを意味します。また、厚生労働省の通達によれば、「医行為」とは、当該行為を行うにあたって医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼすおそれのある行為」とされています。

このように、医業や医行為の定義は一義的に明確ではなく、個別具体的に判断する必要があるため、サービス内容を企画するにあたっては注意が必要です。

なお、厚生労働省と経済産業省が公表した「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」では、医行為該当性について複数の見解が示されており、参考となります。

ヘルスケアビジネスの分野は、関連法令が多く、調査するべき範囲も広いため、事前に厚生労働省等の当局に紹介するか、専門家に確認することが重要となってきます。当局に確認する手段の一つとして、経済産業省のグレーゾーン解消制度ががありますので、新サービスの提供を考えている事業者は積極的に活用するべきと思います。

・広告規制

ヘルスケアビジネスの分野は、人の生命、身体に影響を及ぼす分野であるため、事業自体ではなく、その広告方法においても比較的厳しい規制の対象になります。医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」といいます。)において、「何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。 」(薬機法第66条1項)と規定され、何人も医薬品や医療機器の効能、効果などについて、誇大広告を禁止しています。

また、「医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布すること」は誇大広告に該当するとされています(同条2項)。

さらに、実務的な規制として、厚生労働省からの通知、通達、業界のルール、基準があります。さらに、医療法や景品表示法についても留意が必要となってきます。

ヘルスケアの広告を行う場合は、商品、サービス、役務の内容について、正確かつ真実の情報を掲載しなければならず、虚偽の内容はもとより優良と誤解される内容や誇張する広告は禁止されています。

ヘルスケアビジネスにおいては、消費者に対して、理解してほしいがために広告の文言、内容訴求が行き過ぎないように注意が必要となります。

・ヘルスケア契約法務

医薬品、医療機器、医療だけではなく、単なる健康助言、運動指南、栄養指導といったヘルスケア分野において締結される契約は、アウトソーシングの業務委託契約から、ライセンス契約やアライアンス契約など多くの契約関係が必要となってきます。また、ヘルスケアベンチャーが気をつけるべきものとして、特許権、著作権、商標権などの知的財産財産権も挙げられます。特にスタートアップの場合、商標は非常に重要なものであるにもかかわらず、取得していない企業も多く、後々ビジネスの運営自体が困難に陥ることもあるほど、重大な問題となる場合があります。

ヘルスケア分野における契約の形態は様々である一方、これらの契約書の作成・締結においては、ヘルスケア分野特有の事情が十分に検討・考慮されているかに留意することが重要となりますので、ぜひ事業展開を考えている事業者の方は、専門家に一度ご相談されることをお勧めします。

・おわりに

 コロナの出現によって、現代日本における医療、健康の意識は大きく変化しました。医療だけではなく、健康面のヘルスケアに関する情報も増え、日本においても今後、ヘルステックベンチャーが増えていくことが予想されます。

他方、ヘルステック分野は、法規制が多く、また内容も厳しいため、事前にしっかりとした予防法務施策を講じていないと、取り返しのつかない事態となることがあります。

 弁護士法人やなだ総合法律事務所では、会社設立前後の段階から、会社設立登記、ビジネスの適法性チェック、創業株主間契約、商標登録、などのサポートなど法務面からスタートアップを全面的にサポートしておりますので、お気軽にお問い合わせください。

執筆者:弁護士 簗田 真也

関連記事

  1. 【定期連載】スタートアップ法務から学ぶ失敗事例、注意点 第1回 創業者…

  2. 有料老人ホームの広告で注意すべきこと

  3. 【連載】キャッシュレス決済―第3回:割賦販売

最近の記事

カテゴリー