【連載】キャッシュレス決済―第2回:割賦販売

■ はじめに

本連載では、「キャッシュレス決済」に関する法令について解説しています。

弁護士Aが日常業務において遭遇した法的問題を解決するという設定で解説していますので、関連法令に関する知識だけでなく、法的思考についても参考としていただけると幸いです。

今回は、「クレジットカードでの分割払い」について取り扱います。
クレジットカードでの支払いもキャッシュレス決済の一類型ですが、お店でクレジットカード払いを申し出たときに「一括ですか、分割ですか」と店員さんからきかれたことがおありではないでしょうか。

クレジットカードでの分割支払いを説明する前提として、割賦販売について簡単に解説します。

■ ストーリー

弁護士Aは弁護士資格を取得した後、法律事務所で勤務することなく直ぐに独立しました。
司法試験に合格した後の研修期間には人脈作りの奔走していたため、弁護士業務の実務については右も左も分からないという状況です。

弁護士Aが開業して数か月が経過した頃、複数の依頼者から「弁護士報酬を分割して支払いたい」という要望を受けました。
そこで、Aは報酬等の分割払いの導入を検討することにしました。

弁護士報酬の分割払いに対応すれば、より多くの法律問題を抱えた方々のお役に立てるかもしれないとも思いました。
しかし一方で、そもそも分割払いという制度に何かしらの規制が設けられていないのかといった点も気になります。

そこで、関連しそうな法律を調べてみることにしました。

■ 「割賦販売法」の規制対象

弁護士Aは大学生の頃に、「割賦販売法」という法律を耳にしたことがありました。
おそらく、分割払いのことについて書かれているだろうと予測をつけて詳しく調査してみることにしました。

⑴ 割賦販売法の目的

割賦販売法の第1条には、法律の目的として、「割賦販売等に係る取引の健全な発達」「国民経済の発展」を図ることにあると書かれています...

抽象的であまりピンときませんが、分割払いは、商品等の購入・消費活動が促されるから国民経済に資する一方で、消費者が何かしらの損害を受ける場合もあるえるから気を付けましょうね、ということだと理解しました。

⑵ 割賦販売の規制

割賦販売に関する規制を概観すると、①消費者に対する割賦販売の条件の表示、②消費者への書面の交付、③契約解除の制限、④契約解除に伴う損害賠償の金額の制限といった規定が設けられているようです。

どの規定をみても、

① 割賦販売業者が

②(割賦販売法で定める)「商品」や「権利」や「役務」を

③(割賦販売法で定める)「割賦販売」の方法で販売・提供する場合

が想定されていることがわかりました。

このように、割賦販売に関する規制は、割賦販売業者が、割賦販売法に定められる「商品」や「権利」や「役務」(以下「商品等」といいます。)を、割賦販売という方法で販売・提供する場合に適用されることとなります。

反対にいえば、いずれかに当たらないには、割賦販売法の規制対象から外れることとなります。

⑶ ②「商品」や「権利」や「役務」の内容

弁護士Aとしては、まず、法的サービスの提供が「②「商品」や「権利」や「役務」」に当たるのかどうかが気になり、調べてみました。

割賦販売法と割賦販売法施行令で規定される商品等として、「商品」につき54種類、「権利」につき8種類、「役務」につき11種類が規定されています。

弁護士Aの提供する法的サービスが「役務」に該当しないか調査したところ、割賦販売法の規制が及ぶ「役務」として、以下のケースが列挙されていることがわかりました。

※「割賦販売法施行令」の「別表第一の三」を引用します。

ⅰ)人の皮膚を清潔にし若しくは美化し、体型を整え、又は体重を減ずるための施術を行うこと(次号に掲げるものを除く。)。
ⅱ)人の皮膚を清潔にし若しくは美化し、体型を整え、体重を減じ、又は歯牙を漂白するための医学的処置、手術及びその他の治療を行うこと。
ⅲ)保養のための施設又はスポーツ施設を利用させること。
ⅳ)家屋、門又は塀の修繕又は改良
ⅴ)語学の教授(学校教育法第一条に規定する学校、同法第百二十四条に規定する専修学校若しくは同法第百三十四条第一項に規定する各種学校の入学者を選抜するための学力試験に備えるため又は同法第一条に規定する学校(大学を除く。)における教育の補習のための学力の教授に該当するものを除く。)
ⅵ)入学試験に備えるため又は学校教育の補習のための学力の教授(次号に規定する場所以外の場所において提供されるものに限る。)
ⅶ)入学試験に備えるため又は学校教育の補習のための学校教育法第一条に規定する学校(幼稚園及び大学を除く。)の児童、生徒又は学生を対象とした学力の教授(役務提供事業者の事業所その他の役務提供事業者が当該役務提供のために用意する場所において提供されるものに限る。)
ⅷ)電子計算機又はワードプロセッサーの操作に関する知識又は技術の教授
ⅸ)結婚を希望する者を対象とした異性の紹介
ⅹ)家屋における有害動物又は有害植物の防除
ⅺ)技芸又は知識の教授(第五号から第八号までに掲げるものを除く。)

 

弁護士Aは、ひとまず、自身の提供する法的サービスがいずれにも当たらないことを確認できました。

が、上に列挙した項目のうち、「人の皮膚を清潔にし若しくは美化し、体型を整え、又は体重を減ずるための施術を行うこと」という点が気になって仕方がありません。

というのも、来月に予定されている相談の内容が、「エステサロンの開業」であり、一見すると当てはまりそうだったためです。

相談者は弁護士Aが研修時代に知り合った方で、人脈作りに奔走した時間を無駄にしないためにも、適切な法的アドバイスができるよう十分に準備しておきたいと思いました。

次回の連載では、エステサロンを題材として、割賦販売法の適用事例について検討したいと思います。

■ まとめ

●割賦販売法では、以下のいずれにも該当する場合に、各種規制が適用される。
① 割賦販売業者が
②(割賦販売法で定める)「商品」や「権利」や「役務」を
③(割賦販売法で定める)「割賦販売」の方法で販売・提供する場合

●②割賦販売法で規制される「商品」「権利」「役務」は、割賦販売法施行令に明記されている。
なお、商品は54種類、権利は8種類、役務は11種類ある。

●割賦販売の導入を検討するときは、提供する商品等がこれらに該当しないかどうかを最初に判断する必要がある。


執筆者: 弁護士 内藤皓太

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